マーケティングとは、「価値を創造し、美容師技術やサービスが売れ続ける仕組みを作る」こと。マーケティングが進化する過程で生まれたのが、お客様が好む”付加価値”をつける「ブランディング活動」です。「機能的価値」から「情緒的価値」へと進化してきたこの手法は、社会にどう貢献できるかという視点を加えて進化しつつあります。
今回のポイント
ブランディング:ブランド思想や価値観を体現してお客様の”ハート”をつかむ活動
マーケティング3.0:精神的。社会的な側面も含めて価値や意味を考え、共感、共創する考え
ブランドパーパス:美容師としてのブランド存在意義や社会・お客様の貢献視点で価値を捉え直すアプローチ
マーケティングを2.0時代になると、競合関係の中で勝って、選ばれ続けようと、物理的なニーズを満たすだけはなく、お客様のハートを掴むために感情に訴えかける「情緒的価値」が重要視されるようになってきています。そこで発展してきたのがデザインや世界観、パッケージなどのお客様が好む付加価値をつける「ブランディング」です。
美容師ブランディング時代
マーケティングの手法は、時代とともに進化し続けてきました。
一昔前までは、工場で生み出された製品を顧客に届け、生産コストや価格を抑えて大量に販売することがマーケティングに求められてきました。
美容師であれば、決まったスタイルを作り込み、お客様に提供、各社値段を下げた価格競争でお客様を獲得している時代でした。
いわゆる「マーケティング1.0」の時代です。
豊かな生活を実現するための物質的なニーズをどのように満たすのか、美容師さんであれば、有名芸能人の髪型をどのように作りお客様のニーズをどのように満たすのかといった具合です。
具体的には、
「機能的価値」(製品、サービス、美容師であれば”技術”の機能や性能が提供する価値)が重要視されていた時代です。
そこから、時代は流れ、暮らしが満たされ豊かになって、お客様が十分な知識と情報を持って製品や美容師を選択可能な時代に入るとマーケティングは2.0へと進化していきました。ここから、美容師は競合美容師達のなかで、勝って選ばれ続ける技術、ヘアスタイルを提供しようと、ニーズを満たすのみならず、お客様のハートを掴むために感情へ訴えかける「情緒的価値」を重視するよになっていきます。
高い次元で美容師とお客様が共感・共創する時代
そこで発展したのが、デザインや世界観、パッケージなどのブランドの世界観を体現して共感を獲得する「ブランディング」という概念が生まれました。
機能的価値と情緒的価値の両面でマーケティングを行う美容師が増加してきまいした。
次に現れたのが「マーケティング3.0」。マーケティングの父とされるフィリップ・コトラーはマーケティング3.0について「価値主導のマーケティング」だと説明しています。
美容師は、より価値のあるヘアデザインやビジョンを価値を持ってお客様に、社会に貢献することを目指すようになります。
お客様側も、その美容師の活動や投稿スタイルを支持する価値、フォローする価値があるのかなどを考えるように変わっていきました。高い次元で美容師とお客様が共感・共創する潮流が生まれたのです。
他の美容師とは違う、異なる価値のあるものとしてお客様が識別する存在が美容師としての「ブランド」です。
マーケティング2.0時代以降、デザインやシンボルマーク、名称、キャッチフレーズ、世界観、広告活動などを駆使して美容師としての価値をお客様に認識させる活動としてのブランディングに美容師は積極的に時間をかけるようになりました。
マーケティング2.0の時代までは、提供側の美容師と購入側のお客様のヘアスタイルという取引関係を前提に、美容師の優位な領域や成し遂げたいというビジョン、提供したいスタイルなどを考えていれば済みました。”I(自分)”の視点でブランディングを行い、収益を上げていればよかったのです。
美容師の”I"の視点から”We"の視点へ
マーケティング3.0の時代になった今、Iの視点だけではなく、社会にどのような貢献ができるかという”We(美容師とお客様)”の視点で発想する「ブランドパーパス」という考えが支持されつつあります。美容師の思いやルーツを振り返り、現在の生活ニーズや社会的俯瞰(ふかん)的に捉えた時、社会や生活にどう貢献できるか。改めてブランドの存在意義を捉え直そうというアプローチです。※ブランドパーパスとは社会において「どのようなブランドになりたいか」、「自分の美容師としてのブランドを通じて、どのような影響を与えていきたいか」など、ブランドの存在意義について考えることです。
美容師が社会で存在する理由をお客様に認知してもらい、共感を得ることでブランディングの強化につなげます。
お客様を単純に顧客ではなく共創するパートナーと捉え、時には同じ志をもつステークホルダーも巻き込みながら豊かな社会の実現に向けて貢献をしていきます。高い次元でお客様の共感を獲得するのが、ブランドパーパスの狙いです。※ステークホルダーとは、企業の利害関係者のことです。利害関係者というと、金銭的な利害関係の発生する顧客や株主と考えがちですが、ステークホルダーとは企業活動を行う上で関わるすべての人のことを言います。地域住民、官公庁、研究機関、金融機関、そして従業員も含みます。
参考
ブランディングとブランドパーパスの違い
・違い
ブランドパーパスがブランドの存在意義であることに対して、ブランディングとは消費者個人が得られるブランドの価値のことを指します。
ブランドパーパスは社内的な存在意義として認知を広めて、ブランドへの賛同や共感を集めることで、美容師技術やサービスの、推奨行動につなげていこうとするものです。
・成功するための要素
ブランドパーパスが成功している美容師は、お客様のみならずスッタフやディーラー、その他の美容師などの関係者のことも考えています。社会がほしいと感じているのに、誰も提供していない「未充足の社会価値」を存在意義の中心として捉えているのです。(例えば、オンライサロンなどでの知識共有、新しい美容師の形など)
ほかにも商品やサービスを含むブランドに関することすべてが、押し込みや説得ではなく、惹きつけや共感を得て、購買をはじめとする消費者行動につながっています。
実際にブランドパーパスを掲げている行動している事例を3つ紹介します。
事例
Amazon
Amazonのパーパスは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」です。パーパスを実現するために「品揃え」、「価格」、「利便性」を改善していくミッションを掲げています。
そのためお客様が不便に感じていることを分析して解決することで、Amazonのブランドパーパスは実現しています。コロナによって消費者をはじめ、社会全体からの期待が高まっているでしょう。
富士通
富士通のパーパスは「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。
パーパスの実現に向けて働くことだけではなく、仕事や生活をトータルにおいて充実させていくことをコンセプトにしています。
このコンセプトをもとに、リモートワークを推進し、働き方を含めた組織全体を変えることで、消費者だけではなく従業員に対してもパーパスの理解を推進しています。
ナイキ
ナイキのパーパスは「Just Do It(ためらわずやろう)」です。人種差別に反対し、試合時に国家斉唱を拒否したコリン・キャパニック選手の写真とともに、「全てを犠牲にしても、信念を貫け」とのキャッチコピーを発表しました。
反対派はナイキのシューズを燃やしたり、不買運動を起こしたりと猛反発しましたが、賛成派の熱狂的な支持も得ることができ成功しました。
ここでいう実現したい社会というのは、必ずしも地球環境や社会問題といった課題ではありません。
機能していない価値観や偏見からの解放を応援したり、正しい啓発によって不利益から誰かを救ったりということも含まれます。
ブランドパーパスは今後企業のみならず、個人の美容師を総合的にみていく上での指針にもなっていきます。
ブランドパーパスを達成するために、
R&D(研究開発)
CSR(企業、美容師の社会的責任)といった活動をすることは社会的に対して説得力があります。
ブランドパーパスをめちゃくちゃ簡単にいうとお客様にとって、あなたは面白いし、勉強になるし、毎日見ていても飽きないし、むしろ憧れる存在です。みたいな感じです。
その他にも
- 誰かの生活の助けになったり、
- 誰かの生活を楽しくしたり、
- 誰かの気持ちをラクにしたり、
- 誰かを前向きにしたり、
- 勇気づけたり……。
さらにいうのであれば、
- 美容師が他の美容師さんの参考になる投稿、発信
- 美容師さんが投稿する前向きな発信に勇気をもらう
- 美容師さんの投稿を参考に毎日の手入れが楽になった
- 美容師さんのおかげで最高の結婚式になったなど
役立ち方、意味の持ち方、は色々あると思いますが、「美容師というブランドが、技術や商品、サービスを通して、世の中で果たすべき役割」がはっきりと定義されている限り、それはすべてブランドパーパスに当たるんじゃないかと思います。
しかも重要なのは、この「美容師としての技術やSNS投稿内容、サービスを通して、」という点が重要です。あくまでも美容師としてのブランドが、投稿のファンクションや、ヘアスタイルを通して得られるエモーションという「本業」を通して、誰かの役に立っているか、誰かにとって意味のある存在になれているのかが、ブランディングを作っていく上でとても大切です。